
施工者の施主に対しての説明責任は、程度の違いはあるにせよ必須事項です。一昔前の様に背中で仕事を見せて庭師の実力を示すという方法はなくなりつつあります。モノを買うのではなくモノをつくる場合、互いのイメージの違いを理解し歩み寄る必要があり、当たり前のことですが施主と施工者の信頼関係が構築できてこそ良いモノが生まれていきます。それぞれの立場、言い分があり施主、施工者どちらかに肩入れすることはできませんが、意思の疎通がはかれなくなり互いの信頼が崩れたとき、例え客観的に良いモノができたとしても、結果的に良いモノができたとは言えません。
お話のスタートは2022年の6月でした。「元々あった庭をリノベーションして新たに庭を作り直したが、施主の意見、要望は反映されず、残念ながら自分たちが思っていた庭にはならなかった。今回、改めて庭を作り替えてほしい。」という内容でした。まずはヒアリングから。施主が今思っていること、庭に対して思うこと、今後庭でしたいこと等々・・・。様々な感情が混ざり合った打合せでした。
数度の打合せから1か月後の2022年の7月に着手。今後の庭づくりに必要のない景石、植物の撤去から始まり、安全面で問題がある石積箇所の撤去、既存洗い出し舗装の解体~処分など、前回の庭の面影をなくしながら、施主の不安を取り除いていきました。給排水工事も同時に行い、複雑なルートから明確なルートへ変更しました。その後のレンガ積みやアプローチの工事は、現地で打合せを重ねながら進めていき、ベンチ、フェンス、室外機架台の木工事を行い、2023年5月に植栽工事が終了、全ての工事を完了することができました。
今回のポイントの、「現況との調和」、「ゆったりとしたフラットな空間」、「老若男女問わず歩きやすく周遊できる小径」、「庭の中で四季を感じる植栽群」、「庭を使用する人が植えたり、育てたりできるスペースの確保」はある程度実現できたのではと思っております。
工事開始から完了まで約1年を要しました。その間、中断もありましたが、敷地に高低差があること、既存物や埋設物が複雑に配置されていることなどから通常の作業より進捗率が上がりませんでした。また、進めていく中で一旦立ち止まって再考する場面が何度かあり、非常に勉強になった現場でした。長い目でみていたただいた施主に感謝いたします。今後はご自分たちのペースで庭に出て、植物の成長や変化を楽しんでいただければと思っております。
Data
T House 日日(にちにち)過ごす庭
工種:ガーデン工事 (リノベーション)
所在地:岡山市中区
竣工:2023年
施工協力店:庭匠 隠れみの庭、彩匠左官、(有)新日工業、片山建築工房
材料協力店:(株)ユニソン、三協立山(株)、エクシスランド、(株)法山本店、(株)エービーシー商会、オンリーワン、(株)佐藤園芸