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#014 建物と緑について(壁面緑化、屋上緑化等)

 先日、小面積ですが壁面を緑化する依頼がありました。資料を集めるにあたり、岡山市の中心部にも壁面緑化や屋上緑化の事例があることを知りました。そこで今回は岡山市やその他の地域の作品を紹介し、建物と緑について考えたいと思います。​


 まずは、鹿田にある岡山市水道局(4枚)。次に、おかやま信用金庫 内山下支店(2枚)、ストライプインターナショナル本社ビル(2枚)、2019年に施工させていただいたF邸(3枚)、2019年に柳川交差点周辺に完成したグレースタワーⅢ(2枚)、以前訪れた金沢21世紀美術館(2枚)をこの機会にご紹介。続いてJR岡山駅周辺(1枚)、ロイヤルギャラリービル(3枚)へ。上述の壁面緑化に加えて、屋上緑化やバルコニーガーデンの一例を紹介。山陽新聞本社(2枚)、岡山ビジネスカレッジ田町キャンパス(1枚)、旧ジツタ岡山店(1枚)。以前訪れたアクロス福岡(3枚)、那覇市役所(2枚)、壱岐市立一支国博物館(2枚)もご紹介。最後に旧ふれあい港館ワインミュージアム(1枚)、ラコリーナ近江八幡模型等(2枚)を。

岡山市水道局。長さ約29.0m(25.0+4.0m)×高さ約3.0mの緑の壁がひろがる。

2017年竣工。大分、植物が生い茂ってきた。

植栽樹種(確認できた種のみ):ツワブキ、オオイタビ類、シャガ、ヒペリカム、テイカカズラ、ツボサンゴ、矮性サルスベリ、クリスマスローズ、ユキノシタ、ヤマブキ、シダ類、セキショウなど。

駐車スペースにも緑が。保護材施工後、芝を植栽しているが、現状は・・・。

おかやま信用金庫 内山下支店。2013年竣工。植栽樹種(確認できた種のみ):オオイタビ類、ハツユキカズラ、セキショウ、シダ類など。

創立100周年事業として、安藤忠雄氏の設計で建設された。枯死が原因かどうかはわからないが、植替えは行われている模様。

ストライプインターナショナル。建物竣工は2002年。壁面緑化の竣工は2011年。植栽樹種(確認できた種のみ):オオイタビ類、オニヤブソテツ、シダ類など。

オオイタビ類がかなり自由に伸長している。

F邸。2019年に施工させていただいた壁面緑化工事の一例。

1.8m×1.8m、144鉢、27品種を植栽した。

みのる産業(株)が販売しているカベルデユニット(約600mm×600mm:9枚、植栽無し)を使用。支持躯体は建築工事に任せ、植付、育苗後、建込~自動灌水装置の設置を行った。

グレースタワーⅢ。植栽樹種(確認できた種のみ):セキショウ、ヘデラグレイシャー、アベリア、ハツユキカズラなど。

2019年竣工。こちらはカセット式でポット一つ一つをはめ込んでいく。

金沢21世紀美術館。パトリック・ブラン作「緑の橋」(2004年)。竣工から2年経った2006年春の撮影。

金沢の気候に適した約100種類の植物が植えられている。

岡山駅西口広場。植木鉢にヘデラヘリックスを植栽し、誘引フェンス+マットで壁面を緑化。オーソドックスな方法。

ロイヤルギャラリービル。竣工年は分からないが、ここまでのカタチに育てるには相当な年月がかかったと思われる。

樹種はナツヅタ類(ブドウ科ツタ属)。

紅葉時期に再度訪れてみたい。

山陽新聞本社。各階のバルコニーにプランター(固化培土で作成)+植栽を施している。建物の竣工は2006年。

植栽樹種(確認できた種のみ):プリベット、オリーブ、アオキ、シダ類、ツワブキ、テイカカズラ、セイヨウイワナンテン・レインボー、ササ類、オニヤブソテツ、ハツユキカズラ、ネズミモチ、ワイヤープランツなど多様。

岡山ビジネスカレッジ 田町キャンパス。山陽新聞本社と同じようにプランター(固化培土で作成)+植栽を施している。植栽樹種(確認できた種のみ):ボックスウッド、ヘデラ類、オリーブなど。建物の竣工は2017年。

(株)創和設計本社。石井修氏(1922-2007)、1982年の作品。段状に構成された木立とガラスの屋上が特徴。竣工から約40年、残念ながら魅力ある空間が維持されているとは言えない。

アクロス福岡。福岡市中央区天神にある公民複合施設(竣工1995年)。2006年に訪れて以来、二度目。植物が青々として気持ちの良い空間。

階段を上がって振り返れば、階段状のステージがある。のぼる人も利用する人もあまりいない模様。

側面が階段状になっているのが良く分かる。

那覇市役所。2012年に竣工。竣工後4年経た2016年夏に撮影。

ブーゲンビリアなど約90種類の亜熱帯植物が壁面、屋上、バルコニーの緑化に使用されている。

壱岐市立一支国博物館。2010年に竣工。竣工後9年経た2019年夏に撮影。灌水に苦労の跡が。

竣工当初は、芝が張られていたようだ。現在は雑草と芝と育たない箇所が混在している。

旧ふれあい港館ワインミュージアム。1995年に開設されたが、2008年に閉鎖。紆余曲折を経て現在は専門学校として建物は存続している。2013年撮影の為、現在もツツジ類等が生育しているかどうかは分からない。

ラコリーナ近江八幡模型等。今後、必ず訪れたい場所。屋根にシバ、マツ、コケ、ニラ、タンポポなどを植えてきた藤森照信氏の作品(2015年竣工)。

竣工後、植栽された植物がどのように変化していったのかを見て、感じるべき場所。

 今回紹介した、6例(岡山市水道局、おかやま信用金庫 内山下支店、ストライプインターナショナル本社ビル、F邸、グレースタワーⅢと金沢21世紀美術館)は、地面に植物を植えない方法を取っているので、今まで多く見られた壁面緑化の方法〔建物や塀の前にフェンスなどを設置して、地面に植栽したつる性の植物を誘引する方法(JR岡山駅西口広場の例。ただこの例も誘引フェンスとヤシ殻マットを合わせて使用しているので、フェンスのみよりも生長しやすい環境と言える)か、甲子園球場の様につる性植物そのものの力で壁面を緑化する方法(ロイヤルギャラリービルの例)〕とは異なります。

 この地面に植えない方法で植物を順調に生長させて長く維持することは、かなり困難で工夫が必要となります。1)水の問題:金沢21世紀美術館の灌水方法は分かりませんが、その他の5例は自動灌水で定期的に水を供給しています。物理的に土壌の厚み、量の確保ができない為、保水する体積が大きくなく、乾燥の問題を解決する必要があります。また外壁の温度変化がダイレクトに植物に影響を与えるため、温度変化を抑える方法も必要となります。これらの問題は雨水だけでは十分に解消することができません。自動灌水装置は必須となります。2)土の問題:地面に植栽する場合とは異なり、限られた土の量で生育することになります。最初の数年は根が十分に行き渡っていませんので順調に生長しますが、根が行き渡ってしまった後、どのように生育させていくかが問題となります。問題解消の一つ目は定期的な剪定作業です。一般的に葉の量と根の量は同量と言われています。根の量に制限が出てきた場合、葉の量も人為的に制限して両方のバランスを取るという考えです。二つ目は樹種選定です。今回の例の中でオオイタビ、テイカカズラ、ハツユキカズラ、ヘデラ類、ナツヅタなどは、吸着登はんする種ですので、元々の主根を残しつつ、次の生育できる場所へ自身で生長していくことができます。景観上、良い悪いの判断はそれぞれですが、おかやま信用金庫 内山下支店、ストライプインターナショナル本社ビルのオオイタビは生育面積を増やし、かなり自由に伸長しています。3)肥料の問題:自然環境で植物が養分を得る事ができません。自動灌水装置のシステムの中で液肥を混ぜて施肥することも可能です。大面積を維持管理する場合は人為的な施肥方法の検討が必要となります。その他に日照の問題、自動灌水装置のメンテナンス等も考えられますが、植栽管理計画を十分に熟考、理解し、実行することが長く維持できる最良の方法だと感じました。

 問題点を先に挙げてしまいましたが、この方法の最大の魅力は多種多様な植物を同じ面で生育させることができる点です。岡山市水道局は10種類以上の植物を植栽しています。この後、それぞれの樹種間で生存競争が起こり、淘汰されていく種も出てくるでしょう。毎年同じ景色を見せる「緑の壁」ではなく、毎年変化した景色を見せる「緑の壁」に大きな魅力を感じています。そういった意味で今回施工させていただいたF邸は、1.8m×1.8mという小さい面積に144鉢、27品種を植栽しました。この小空間にもストーリーがあり、左斜め上から右斜め下にかけて、山で育つ植物~川辺で育つ植物~海辺で育つ植物を植栽しています。これは川の流れのように上流から下流をイメージしても良いし、モノの流通をイメージしても良い、自然の摂理や重力をイメージしても良いと考えています。環境に適応できた種が勝ち、できなかった種が負ける、弱肉強食の世界をイメージしても良いです。多種多様な植物を同じ面で植える事ができたからこそ実現した表現方法の一つです。

​ 次に紹介したバルコニーガーデンや屋上緑化の例は、人がそこに入って管理を行う事ができるので、どれくらいこまめに維持管理ができるかによって美しく維持できる年数が決まっていくように思えます。維持管理にそれほど費用をかける事ができなければ、最初の志とは違った結果になってしまいます(たとえどんなに高名な建築家が設計したとしても)。それは少しさびしいことです。アクロス福岡は竣工して10年以上経ってもなお青々とした緑を有しています。計画段階で、近隣の山々の樹種をこの地に引き込むことを考えていたようで、風、虫、鳥などが運んできた花粉や種子から、最初に植えた植物の量以上の植物が生まれている現状に驚き、感動します。人工の森でありながら遷移がどこまで進んでいくのか?経緯を見守りたい事例です。最後にラコリーナ近江八幡はどうしても気になる場所です。今までの多様性の話とは異なる考えの「単植の美」をどこまで追求、維持できているのかをしっかりと感じてみたいです。


参考資料:「岡山建築散策マップ」、「ラ コリーナ近江八幡」、「緑化樹木ガイドブック」、「みのる産業(株)のサイト 壁面緑化.jp」、「各種パンフレット+Web.」他

訪問日:2019年9月26日、27日他

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