#017-01 ちょっと駆け足で巡る(石川編01)
- Green Scape Lab

- 1月16日
- 読了時間: 8分
更新日:1 日前
石川県の訪問は2021年6月のことでした。その後、コロナ禍、令和6年能登半島地震が重なり、ブログの休止も相まってなかなか当時の記録を掲載できずにいました。現在も全てが復興したとは言えませんが、次回掲載予定の「石川県能登島ガラス美術館」が2025年7月12日に営業を再開したという明るいニュースも届いています〔その後、空調設備更新工事および館内整備に伴い、2025年10月20日(月)~2026年2月13日(金)まで休館〕。一方で今回紹介する「中谷宇吉郎 雪の科学館」のように、地震の影響で休館を余儀なくされている施設もあります〔2026年4月4日(土)から再開〕。復興の道のりは一歩ずつですが、「石川頑張れ!」という応援の気持ちを込めて、当時訪れた素晴らしい建築物等を紹介いたします。最初は「加賀片山津温泉 総湯」と「中谷宇吉郎 雪の科学館」です。










「加賀片山津温泉 総湯」から車で約5分。「中谷宇吉郎 雪の科学館」へ。














色々なタイミングと事情が重なって、車で金沢へ行く事になりました。初日は電車ではアクセスしにくい訪問地を選びました。二日目以降は車がないので、徒歩で金沢市内を周遊、かなりタイトなスケジュールになりました。
今回掲載の「加賀片山津温泉 総湯」と「中谷宇吉郎 雪の科学館」は、谷口氏の建築に関心があり、周辺を調べているうちに磯崎氏の建築があることを知りました。残念ながら時間の都合で両施設とも中に入ることができませんでしたが、次回行く機会があれば、必ず施設内を体感したいと思います。
「加賀片山津温泉 総湯」は谷口吉生氏が設計した、ガラス張りの壁が美しいモダン建築です。この壁のサイズ(幅約42m×高さ約9.8m、幅35枚×高さ4枚)から計算すると一つの長方形のガラスのサイズは、幅約1.2m×高さ約2.4mとなります。この一枚の長方形が基本寸法となり、1Fと2Fの高さ、エントランスの幅、庇の幅、スロープの幅、柴山潟側の外階段の幅などがそれぞれ、基本寸法のn倍になっています。さらに、アプローチで用いられている方形石の目地はガラスのピッチと揃っており、7枚目の柴山潟側のボードウォークの中心とガラスのピッチも揃っているように見えます。他にも気づいていないだけで、基本寸法のn倍や分割によって、スケールが規定されている箇所がありそうです。また、ネット等で確認できる「潟の湯」から見える柴山潟の水面はお湯の水面とピッタリ揃っており、ち密に計算された視線の抜けや基本寸法に基づいて計算されていることが推察され、内部空間と自然が一体化するような仕掛けが施されています。この厳格なまでに計算された統一感は、谷口建築の特徴であり、建物に心地よい緊張感と静謐な美しさを与えています。
しかし、ここで一つの疑問が浮かびます。本来「リラックス」を目的とする温泉施設に、なぜこれほどの「緊張感」が必要なのか?
その緊張感が必要な理由は、日常から精神を切り離し、感性を極限まで研ぎ澄ませるための「装置」として建築が機能しているからではないでしょうか。従来の温泉施設は、柔らかな空間に温かい湯船という、いわば「緊張と緩和の落差が小さい」構成が一般的でした。しかし、この施設が提示するのは、厳格なモダニズム建築による圧倒的な「緊張」と、湯船に身を委ね風景と溶け合う瞬間の「緩和」の鮮やかな対比です。
この構造は、二代目桂枝雀の笑いの本質である「緊張の緩和(極限まで高まった緊張が、一気に解き放たれる瞬間に笑いが生まれる)」という理論に驚くほど似ています。建築がもたらす規律という高いハードルがあるからこそ、そこからの緊張の緩和が起きたとき、落差が大きい分くつろぎも大きいものとなります。それは単なる入浴を超え、精神の深部にまで届くような、これまでにないリラクゼーション体験へと私たちを導いてくれるのではないか?と(あくまでも私見です)。
「中谷宇吉郎 雪の科学館」は磯崎新氏の設計です。こちらも内部を見学していないので施設内の内容はネット等を参考にするしかないのですが、中庭の「グリーンランド氷河の原」(中谷芙二子作)にとても感銘を受けたので、庭を造る、石を据えるという観点からこの中庭に感じたことを記載します。
日本の造園家が庭に石を据える場合、どういったことを考えているのかはその時々のテーマによって異なりますが、基本的には以下の事を考えながら進めていく事が多いです(出来ている出来ていないに関わらず)。
1.石を据えるぞ!という強い思いを持って石の表情をくみ取り、どの面を上にどの面を前にするかを決める、2.氷山の一角という言葉ある通り、石の根入れ具合を考える、3.数を据えていく場合は、平面的にも立面的にも不等辺三角形を意識して線上に乗らないようバランスを見ながら配置していく。
いずれにせよ、作為を持って石を据えるのですが、前からそこにあったような自然な感じ(無作為性)を出すか?、しっかりと石の個性(作為性)を出すか?は個々の造園家の育ってきた環境、学んできた環境に影響するし、施主の要望も大きく影響します。作為>無作為、無作為>作為、難しい問題です。私自身は、「山があってそこから石がゴロゴロと転がっていく、紆余曲折がありながら石がとどまったり、流されている中で上流の石は大きく角張って残り、下流の石は小さく丸まる、最後に砂となって海に出ていく」という石の一生のような過程を大事にしながら、石を据えています。
さて、この中庭の「グリーンランド氷河の原」です。最初パッと見た時は、「何と無造作に置かれた石たちよ!」と思いましたが、その飾らないそっけなさに底知れぬ美しさも同時に感じました。無作為>>作為、日本人の石の据え方にはない考え方がそこにはありました。とてもびっくりした感想を持って帰った後、調べてみると、1.「モレーン(氷河堆石)」の再現:この庭園は、氷河が削り取った岩石や土砂が氷河の末端に堆積してできる「モレーン(氷河堆石)」という地形を再現している、2.霧の彫刻との融合:この中庭は、宇吉郎の次女で「霧の彫刻家」として知られる中谷芙二子氏による霧の彫刻作品でもある、3.時間の堆積を象徴する岩石:敷かれている石は約60トンに及び、中には約38億年前という世界最古級の岩石(イスア地域の堆積岩など)が含まれている、ということが分かりました。
おそらく1.のモレーンとい地形の再現が極力、作為感を排除して石を置いていると感じたのだ思われます。ただ、2.の作品を作るに当たっては、霧という「捉えどころのない自然現象」を美しく見せるために、石の敷き方は「霧の動きを妨げず、かつ自然な乱反射を生む」ように設計しなければなりません。したがって、計算された「無作為状態」をあえて作り出した、高度な庭だと言えるのです。
この二つの施設の訪問が2021年、ブログ再開時2026年です。磯崎新氏が2022年、谷口吉生氏が2024年に亡くなられました。お二人のご冥福をお祈りいたします。
参考資料:「各種パンフレット+Web.」、「加賀片山津温泉 総湯 公式サイト」、「中谷宇吉郎 雪の科学館 公式サイト」他
訪問日:2021年6月17日

