先日、小面積ですが壁面を緑化する依頼がありました。資料を集めるにあたり、岡山市の中心部にも壁面緑化や屋上緑化の事例があることを知りました。そこで今回は岡山市やその他の地域の作品を紹介し、建物と緑について考えたいと思います。
まずは、鹿田にある岡山市水道局(4枚)。次に、おかやま信用金庫 内山下支店(2枚)、ストライプインターナショナル本社ビル(2枚)、2019年に施工させていただいたF邸(3枚)、2019年に柳川交差点周辺に完成したグレースタワーⅢ(2枚)、以前訪れた金沢21世紀美術館(2枚)をこの機会にご紹介。続いてJR岡山駅周辺(1枚)、ロイヤルギャラリービル(3枚)へ。上述の壁面緑化に加えて、屋上緑化やバルコニーガーデンの一例を紹介。山陽新聞本社(2枚)、岡山ビジネスカレッジ田町キャンパス(1枚)、旧ジツタ岡山店(1枚)。以前訪れたアクロス福岡(3枚)、那覇市役所(2枚)、壱岐市立一支国博物館(2枚)もご紹介。最後に旧ふれあい港館ワインミュージアム(1枚)、ラコリーナ近江八幡模型等(2枚)を。
今回紹介した、6例(岡山市水道局、おかやま信用金庫 内山下支店、ストライプインターナショナル本社ビル、F邸、グレースタワーⅢと金沢21世紀美術館)は、地面に植物を植えない方法を取っているので、今まで多く見られた壁面緑化の方法〔建物や塀の前にフェンスなどを設置して、地面に植栽したつる性の植物を誘引する方法(JR岡山駅西口広場の例。ただこの例も誘引フェンスとヤシ殻マットを合わせて使用しているので、フェンスのみよりも生長しやすい環境と言える)か、甲子園球場の様につる性植物そのものの力で壁面を緑化する方法(ロイヤルギャラリービルの例)〕とは異なります。
この地面に植えない方法で植物を順調に生長させて長く維持することは、かなり困難で工夫が必要となります。1)水の問題:金沢21世紀美術館の灌水方法は分かりませんが、その他の5例は自動灌水で定期的に水を供給しています。物理的に土壌の厚み、量の確保ができない為、保水する体積が大きくなく、乾燥の問題を解決する必要があります。また外壁の温度変化がダイレクトに植物に影響を与えるため、温度変化を抑える方法も必要となります。これらの問題は雨水だけでは十分に解消することができません。自動灌水装置は必須となります。2)土の問題:地面に植栽する場合とは異なり、限られた土の量で生育することになります。最初の数年は根が十分に行き渡っていませんので順調に生長しますが、根が行き渡ってしまった後、どのように生育させていくかが問題となります。問題解消の一つ目は定期的な剪定作業です。一般的に葉の量と根の量は同量と言われています。根の量に制限が出てきた場合、葉の量も人為的に制限して両方のバランスを取るという考えです。二つ目は樹種選定です。今回の例の中でオオイタビ、テイカカズラ、ハツユキカズラ、ヘデラ類、ナツヅタなどは、吸着登はんする種ですので、元々の主根を残しつつ、次の生育できる場所へ自身で生長していくことができます。景観上、良い悪いの判断はそれぞれですが、おかやま信用金庫 内山下支店、ストライプインターナショナル本社ビルのオオイタビは生育面積を増やし、かなり自由に伸長しています。3)肥料の問題:自然環境で植物が養分を得る事ができません。自動灌水装置のシステムの中で液肥を混ぜて施肥することも可能です。大面積を維持管理する場合は人為的な施肥方法の検討が必要となります。その他に日照の問題、自動灌水装置のメンテナンス等も考えられますが、植栽管理計画を十分に熟考、理解し、実行することが長く維持できる最良の方法だと感じました。
問題点を先に挙げてしまいましたが、この方法の最大の魅力は多種多様な植物を同じ面で生育させることができる点です。岡山市水道局は10種類以上の植物を植栽しています。この後、それぞれの樹種間で生存競争が起こり、淘汰されていく種も出てくるでしょう。毎年同じ景色を見せる「緑の壁」ではなく、毎年変化した景色を見せる「緑の壁」に大きな魅力を感じています。そういった意味で今回施工させていただいたF邸は、1.8m×1.8mという小さい面積に144鉢、27品種を植栽しました。この小空間にもストーリーがあり、左斜め上から右斜め下にかけて、山で育つ植物~川辺で育つ植物~海辺で育つ植物を植栽しています。これは川の流れのように上流から下流をイメージしても良いし、モノの流通をイメージしても良い、自然の摂理や重力をイメージしても良いと考えています。環境に適応できた種が勝ち、できなかった種が負ける、弱肉強食の世界をイメージしても良いです。多種多様な植物を同じ面で植える事ができたからこそ実現した表現方法の一つです。
次に紹介したバルコニーガーデンや屋上緑化の例は、人がそこに入って管理を行う事ができるので、どれくらいこまめに維持管理ができるかによって美しく維持できる年数が決まっていくように思えます。維持管理にそれほど費用をかける事ができなければ、最初の志とは違った結果になってしまいます(たとえどんなに高名な建築家が設計したとしても)。それは少しさびしいことです。アクロス福岡は竣工して10年以上経ってもなお青々とした緑を有しています。計画段階で、近隣の山々の樹種をこの地に引き込むことを考えていたようで、風、虫、鳥などが運んできた花粉や種子から、最初に植えた植物の量以上の植物が生まれている現状に驚き、感動します。人工の森でありながら遷移がどこまで進んでいくのか?経緯を見守りたい事例です。最後にラコリーナ近江八幡はどうしても気になる場所です。今までの多様性の話とは異なる考えの「単植の美」をどこまで追求、維持できているのかをしっかりと感じてみたいです。
参考資料:「岡山建築散策マップ」、「ラ コリーナ近江八幡」、「緑化樹木ガイドブック」、「みのる産業(株)のサイト 壁面緑化.jp」、「各種パンフレット+Web.」他
訪問日:2019年9月26日、27日他
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